— times

「何か、雨の日って子供のころの感じがしない?」
突如、幹子が話題を変えた。
「ああ、わかる。」
本当にぴったりきたので私は頷いた。

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薄いコーヒーと甘い菓子、缶のビール。強烈な陽ざし。飛び交うフィリピン語。
変な町だ。印象がつかめず、変に希薄な感じがする。人々が絵のように薄く見えたりする。かげろうのように美しい景色がゆがんで見える。
「変な島、変な時間。」
私は言った。
「ここに住むって、不思議なことね。」
「私にとってはどこだって、日本より住みやすいわよ。」
させ子は言った。

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ぼくの背中を掻いておくれ、お返しに背中をふみつけてやろう。

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彼女は、学者でなかったとすれば、また哲学者でもなかった。抽象化する力に欠けていたからである。知識への渇望が彼女の皮肉や多彩とは争いもせず、もし別の時代であれば随筆や批評を書いていたであろう。こうして彼女は一つの思想に生きるのでもなけく、また新しい思想を作り出すのでもなかった。

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記憶されている情報は、自分が意識しなくても想起されやすくなることがある。たとえば、最近見たばかりの単語や、それと関係の深い単語は、他の単語より思い出しやすくなる。

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物を細かく見分ける力は、目の構造と、脳の「注意を向ける能力」によって制限される。ここでの注意とは、「ある物についての情報を他より優先して処理する」というような意味だ。限りある脳の対処能力を何かに割り当てること、と考えてもいいだろう。何かに注意を向ければ、それに関しては、他より細かい部分まで把握できる。

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「死ぬ時は、忘れていた人をひとりづつ憶い出すわ」
海辺の錆びた漁船の縁に座って、時子は独り言のように呟いた。
恐怖を拭って善良さへ心が傾くかもしれないなと胸の中で頷くと、
「コワいのは憶い出せない人がいたらどうしようってこと」

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