— times

死ぬ時は

「死ぬ時は、忘れていた人をひとりづつ憶い出すわ」
海辺の錆びた漁船の縁に座って、時子は独り言のように呟いた。
恐怖を拭って善良さへ心が傾くかもしれないなと胸の中で頷くと、
「コワいのは憶い出せない人がいたらどうしようってこと」


text by tetsuya machida