髪に隠れて
横顔が髪に隠れて、白い顎の先だけが見えた。
口元に添えている指先が、やや外側に反っていて、モノを掴むような触手ではないが奇麗な形だと思った。
丸い小さな爪に、淡い夕暮れの光をぼんやり集め、蛍のように滲んだ。
見つめたふたつを脳裏に残すようにして、ハンドルを握り、ギアをRに入れ、クラッチを離しながら、砂浜から車を遠ざけた。
帰り道は雨となり、寝息が聴こえたので、助手席には一度も眼差しを投げなかった。
カーラジオからSealのDon’t Cryが流れていた。
text by tetsuya machida