静謐の底で、私は遠ざかって行く光を目守っていた。 背から、冷気が流れて来た。 頭上では、宆蓋を掻くような禽の音が、跡切れ々々に鳴り響いている。 夜は、重く、生温い、獣のような寝息を吐いていた。
日蝕/平野啓一朗