— times

水辺に佇み

水辺に佇み、それを打目守っていたピュエルは、この時ゆくりなくも前へと進み始めた。
水の面に映じた許多の滴石が砕けて、鬱金の破片が野火のように氾がっていった。洞内は、その波紋の翳に揺れている。水は低く、纔かに膝の上までを濡らしただけである。


日蝕/平野啓一朗