— times

風はいよいよ

風はいよいよ吹き荒れ、雨もそれにあおられて舞うせいか、まっすぐ落ちてこないで、ざっ、ざっ、ざっ、と如雨露で水をまいたように塊となって窓を打ちつける。木々の梢に切り裂かれた風の音が彼の耳のなかでかすれたひとの声に変化する。命の芯、とその声は告げているようだった。おまえに、命の芯を受け止める力があるのか、と。


河岸忘日抄/堀江敏幸