— times

音は消える

音は消える。ちょうど印度の砂絵のように。風が跡形もなく痕跡を消し去る。だが、その不可視の痕跡は、何も無かった前と同じではない。音もそうだ。聴かれ、発音され、そして消える。しかし消えることで、音は、より確かな実在として、再び、聴き出されるのだ。


「消える音を聴く」毎日新聞・夕刊 10,July.1992 武満徹