— times

驟雨

 微かな頭痛が残ったまま、必要ないだろうと手荷物を宿にあずけ、多少濡れても構わない。ゆっくりと歩き、一時間程過ぎていた。 
 ふいに密度の濃くなった驟雨を避けて軒先に体を寄せハンカチで肩を拭うと、街道を挟んだ向こう側に、暗がりに灯るような白い皮膚をこちらと同じように拭うワンピース姿の女が見えた。
 一度視線を会わせてから、見てはいけないモノをみてしまったような羞恥が眉間を横切った。間を走り抜けるバスの窓に顎と視線を投げ逃れ、ポケットの煙草を探り、残りが少ない凹んだ箱を掴み、一本を銜え火をつけ、左肩脇にあった自動販売機に小銭を入れ、普段は吸わない銘柄を選んでいた。


驟雨